ドーンという音がした。
窓の外を見ると火の波ができている。
その火の流れが少しずつ家の方へ近づいていて、外からは「燃えてるぞー!逃げろー!」という叫び声が聞こえる。
逃げるか家の中に留まるか…私は留まる選択をしていた。
「あの火の燃えてくる早さだと逃げても逃げきれない。それならみんなで一緒に!」と、家の中の一箇所に集まるイメージをした時、その先の展開はやはり死しかないと分かった。
「本当にそれでいいのだろうか…」と次は車で逃げるイメージをするが、外はもう渋滞で、車同士ぶつかり合い、みな急げとばかりにクラクションを鳴らさずにはいられない大混乱の情景が浮かぶ。
「車もだめならもう方法はないよね…」と思いながらも、
「アルミホイルで覆った中にみんなで入ればいいかな、いやまずアルミが足りないし、鮭のホイル焼きみたいになる」
「お風呂でシャワーを出し続けてればいいかな、いや猫が怖がるな」と、諦めきれない自分がいた。
そんな思い立ってはすぐ却下になるアイディアを練り出していると、「鳳凰かユニコーンを呼べばいいんだ!」と思い立つ。
それも自信満々に、「そうだ、その手があった!」と。
鳳凰にしようか、ユニコーンにしようか贅沢にも悩み、現実世界ではユニコーンのグッズばかり持っているのに鳳凰に決めた。
すると自宅の庭に、虹色に輝いた、大きな鳳凰が現れる。
鳳凰があまりにでかくて庭が足りていないことが想定外だったが、鳳凰は狭そうにしておらず、フェンスが鳳凰に合わせて歪んでいた。
パートナーは財布も持たなきゃ!と焦っているが、鳳凰は「何も持つな」と言う。
鳳凰の言葉はパートナーには届いていないようで、「本当に必要なものだけ乗せろ」と言っていると伝えると、すんなりと受け入れ、猫の入ったゲージだけを持ち上げた。
リビングの窓から庭に出るとき、「靴もいらないよね?」ということを確認し合うかのように顔を見合わせた私たちは、ふたりとも裸足のまま外へ出る。
窓の鍵がかけられないことに一瞬不安になったが、もうどうでもいい。
鳳凰の羽はすごくサラサラで、滑ってよじ登ることができない。
ふと私は「トトロが飛んでるとき、よくお腹につかまっていられたなぁ(メイとサツキが)」と考えている。
すると鳳凰が、羽でヨッと背中あたりに持ち上げてくれた。
背中はとても広くて、乗り心地もよかった。
鳳凰の「いくぞ」という掛け声のあと、ふわっと飛び立ち、私たちはあっという間に空高く、地上で起こっている火の波に見えていたものが随分と広範囲だったことを知る。
もっと上へ行くと、地球全体の火災のように見え、また宇宙空間にはあらゆる生物に乗っている人間達が沢山いた。
「こんなに多くの人が避難できているんだ…」と、驚きと安堵とを感じた時にはもうパートナーは眠っている。
落ちてしまわないか慌てて起こそうとすると「眠らしとけ」と鳳凰は言う。
よくよく見ると周りの人達も起きて感動している人と、完全に眠っている人とで分かれていた。
猫は騒ぐ様子もなくおとなしい。日頃家じゃあんなに騒がしいのに。
むしろ今、意識はここにないのかな?という存在の薄さだったが、不安はなく、肉体は間違いなくゲージに入れたから大丈夫…と思っていた。
「この先地球はどうなってしまうんだろう…」と考えると、考えたことがすぐ鳳凰にバレてしまう。
これがテレパシーなのか?と私はまた思っている。
鳳凰の言葉も、言葉として聞きとっていたつもりだったのが、感覚で入ってきていることに気付いた。
音を聞こうとすると、それは無音の、静寂の音が流れているだけ。
気付いていくごとに鳳凰が「そうだそうだ」と頷いている気がした。
しばらく浮遊しながら赤い地球を眺めていたが、直感的に家に帰れることは分かっていた。
この宇宙空間が心地良かったので「帰れなくてもいいけど…」と思ってみるけど、そう思うと帰れるようなイメージが流れてくる。
それも今までとは違うような、家の中がクリーンなイメージだった。
「どうやって戻るんだろう…」と思うと途端に事態は急展開。
青白く輝く綺麗な地球が目の前にボンっと現れ、そこへ向けて急降下。
全体がシュッと暗闇となり、早々に自分が寝ていた布団の中で目が覚めるが、これはまだ夢の中だと知っていた。
猫達は何もごともなかったように朝ごはんを待っている。
パートナーも普通にベッドで寝ている。
半分意識のあるような夢の中で確認が済むと、私はこの現実世界に目を覚ましたのだった。